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元従業員から残業代を請求された! 中小企業の社長が知っておくべき対応の全手順

~ 実際の案件対応から学ぶ、労基署対応と未払賃金精算の実務 ~


この記事の内容

  1. ある日突然、労基署から呼び出しが来る
  2. なぜ「うちに限って」が危ないのか
  3. 未払残業代はいくらになるのか? 計算の仕組み
  4. 労基署への出頭 ― やってはいけない3つのこと
  5. 対応の全手順 ― 6つのステップ
  6. 「自主是正」のチャンスを逃さない
  7. 今日からできる再発防止策
  8. まとめ ― 早期対応が最大の節約

1. ある日突然、労基署から呼び出しが来る

飲食店を経営するA社長から、ある日こんな連絡が届きました。

「元従業員から未払い残業代の申告があって、労基署に呼ばれました。正直、こうなることを想定していなくて、勤怠管理もほとんどしていませんでした。どうしたらいいでしょうか……」

A社長はWeb制作の会社を一人で経営していましたが、数年前に飲食店を開業。知人を正社員として雇い、信頼関係のもと「固定給・残業代なし」で運営していました。就業規則もなく、タイムカードもなく、雇用契約書すらありませんでした。

このケースは決して特殊ではありません。特に従業員が数名の小規模事業所では、「知り合いだから」「うちは残業なんてないから」と、労務管理を後回しにしてしまうことがよくあります。しかし、一度申告されてしまえば、労働基準監督署は動きます。そして、記録がない会社は圧倒的に不利な立場に立たされます。


2. なぜ「うちに限って」が危ないのか

口約束は法的に無効

「固定給に残業代を含む」という合意があったとしても、対象となる残業時間数と金額が雇用契約書に明記されていなければ、法的には「固定残業代の合意」として認められません。結果として、月給の全額が割増賃金の基礎となります。

同様に、「はみ出た時間は別の日に早上がりして相殺する」という約束も、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)および第37条(割増賃金の義務)に違反し、無効です。労基署の前でこれを口にすれば、むしろ「違法を認識していた」と心証を悪くするだけです。

記録がなければ、従業員の申告がベースになる

タイムカード、出勤簿、勤怠システムなど客観的な記録がない場合、労基署は従業員側の自己申告記録をベースに計算を求めてきます。「そんなに長く働いていなかったはずだ」と言いたくても、反証する記録がなければ争えません。

ここが最大のリスク:会社に勤怠記録がないこと自体が法令違反(労基法第108条・第109条)です。記録がないのは「管理していなかった会社の責任」であり、従業員が不利になることはありません。


3. 未払残業代はいくらになるのか? 計算の仕組み

時効は3年

2020年4月の法改正で、未払賃金の消滅時効は2年から3年に延長されました(当分の間の経過措置)。つまり、退職日から遡って直近3年分が請求の対象になります。5年間勤めていても、実際に計算するのは直近3年分です。

基礎時給の計算

項目 内容
計算式 月給 ÷ 月平均所定労働時間
月給25万円・1日8時間の場合 250,000 ÷ 173.8h ≒ 1,438円
月給28万円・1日8時間の場合 280,000 ÷ 173.8h ≒ 1,611円

就業規則や雇用契約書で所定労働時間を定めていない場合、従業員の実態にもとづく時間が使われるため、基礎時給が思った以上に高くなることがあります。

割増率

種類 割増率 該当する時間帯
法定時間外(残業) 25%以上 1日8時間・週40時間を超えた分
深夜労働 25%以上 22:00 ~ 翌5:00
時間外+深夜の重複 50%以上 上記が重なる場合

実際のケースでの計算例

A社長は当初、「せいぜい30〜40万円くらいだろう」と考えていました。しかし、実際に計算すると……

未払額:約60万円〜80万円

飲食店の営業時間(夕方〜深夜1時)で毎日深夜割増が発生しており、さらに月に数回は翌朝まで営業していたことが、レジの操作記録から判明しました。「少しくらい」の積み重ねが、3年分で大きな金額になっていたのです。


4. 労基署への出頭 ― やってはいけない3つのこと

🚫 絶対にやってはいけないこと

① 記録の改ざん・後付け作成
発覚すれば心証が著しく悪化し、単なる是正指導が「悪質」認定に変わります。書類送検のリスクすらあります。

② 「相殺の約束があった」と言う
労基法に違反する合意は無効です。これを口にすると、違法な運用を認識しながら放置していた証拠になります。

③ 全面的に争う姿勢を見せる
労基署は行政機関であり、裁判所ではありません。「払いません」と突っぱねても、是正勧告が出るだけです。協力的な姿勢が最善の戦略です。


5. 対応の全手順 ― 6つのステップ

ステップ1:専門家に相談する
労基署から連絡が来た時点で、社会保険労務士または弁護士に相談しましょう。自分一人で対応しようとすると、法的に不利な発言をしてしまうリスクがあります。顧問社労士がいる場合は、まずそちらに連絡してください。

ステップ2:手元の資料をすべて集める
賃金台帳、給与明細、シフト表、業務メール・LINE、レジの操作記録、防犯カメラの映像など、従業員の勤務時間が推定できるものを網羅的に集めます。「完璧でなくてよい」ので、存在するものはすべて出します。

ステップ3:事実関係を正直に整理する
勤務時間、休憩の取り方、給与の変遷、管理体制の実態を、盛ることなく整理します。不備は不備として率直に認める書面を作ると、労基署の心証が大きく変わります。

ステップ4:労基署のヒアリングに対応する
初回のヒアリングでは、会社側の事情説明書を提出し、従業員の申告内容を確認します。この時点で是正勧告が出ることもあれば、「計算して提出してください」と指示されることもあります。

ステップ5:未払額を計算し、報告書とともに提出する
従業員の申告データと会社側の資料を突合し、労基署の指示に沿って割増賃金を計算します。計算前提(所定労働時間、休憩の扱い、基礎時給など)を明記した報告書を添えて提出します。

ステップ6:未払額を速やかに精算する
計算結果が確定したら、速やかに従業員に支払います。ここで誠実に対応すれば、通常はこの段階で終結します。支払いの遅延は遅延損害金(退職後は年14.6%)の対象になるため、スピードが重要です。


6. 「自主是正」のチャンスを逃さない

あまり知られていませんが、労基署の対応には段階があります。

段階 内容 影響
①自主是正の機会 「計算して払ってください」と指示 企業名公表なし・付加金リスクなし
②是正勧告 法令違反を正式に指摘 記録に残る・繰り返すと送検リスク
③送検 悪質なケースで検察に送致 刑事罰の対象

ポイント:労基署から「計算して報告してください」と言われた段階は、正式な是正勧告のです。ここで素直に計算し、速やかに支払えば、是正勧告を受けずに済む可能性が高くなります。これが「自主是正」です。

逆に、この段階で争ったり引き延ばしたりすると、是正勧告が出されます。是正勧告自体に法的強制力はありませんが、従わなければ送検につながりますし、従業員が民事訴訟を起こした場合には「付加金」(未払額と同額まで上乗せ)を命じられるリスクもあります。


7. 今日からできる再発防止策

  • 勤怠記録を毎日つける ― タイムカードやアプリ(無料のものも多数あり)で、出勤・退勤・休憩の時刻を客観的に記録する
  • 雇用契約書を書面で交付する ― 労働条件通知書の交付は法律上の義務です(労基法第15条)。知人であっても必ず作成する
  • 所定労働時間を明確にする ― 「何時から何時まで」「休憩は何時から何分」を書面で定める
  • 休憩時間を記録する ― 「適当に取って」ではなく、取得時刻を記録に残す。休憩を取ったか取らなかったかは、後から証明できない
  • 36協定を届け出る ― 残業が1分でもあるなら、36協定は必須です。届出なしの残業は、すべて違法な時間外労働
  • 固定残業代は金額と時間数を明記する ― 「基本給に含む」だけでは法的に無効。対象時間数・金額・超過分は別途支給する旨を明記する
  • 給与計算は専門家に依頼する ― 割増賃金の計算ミスは想像以上に多い。月額数万円の顧問料で、数十万円〜数百万円のリスクを回避できる

8. まとめ ― 早期対応が最大の節約

元従業員からの残業代請求は、経営者にとって大きなストレスです。しかし、正しい手順で対応すれば着地点は必ず見えてきます。

📌 この記事のポイント

  • 口約束や信頼関係に依存した労務管理は、いつか必ず問題になる
  • 勤怠記録がない場合、従業員の申告がベースになる
  • 未払額は「少しくらいの残業」でも3年分で数十万円〜100万円規模になりうる
  • 労基署の「計算して出してください」は自主是正のチャンス。素直に応じるのが最善
  • 争うよりも、計算して払って終わらせる方が圧倒的にコストが安い
  • 再発防止は今日から始められる。勤怠記録と雇用契約書、この2つだけでもすぐに

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