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役員報酬80万円の社長が給与計算を自分でやると月いくらの損か

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給与計算・顧問契約

~ 毎月「見えない損失」が積み重なっている ~


「給与計算くらい自分でできる」と思っている社長は多い。確かに、毎月の計算は回っている。給与明細も出ている。しかし、「回っている」と「正しい」は別の話だ。

前回の記事では、社長が給与計算を自分でやるときに起こりやすい7つのミスを紹介した。今回は、そのミスが「月いくらの損」につながるのかを、役員報酬80万円の会社を例に具体的な数字で見てみる。

「うちには関係ない」と感じた方は、ぜひ最後まで読んでほしい。計算が終わる頃には、気持ちが変わるかもしれない。

給与計算のミスが経営リスク

1. 前提条件の設定|役員報酬80万円の会社

計算の前提として、以下のモデルケースを使う。実際の相談で多いタイプの会社だ。

項目 設定値
業種 建設・設備工事業(従業員8名)
役員報酬(社長) 月額 80万円
一般従業員の平均月給 28万円(基本給 25万円+職務手当 3万円)
平均残業時間 月 25時間(うち固定残業 20時間込み)
給与計算担当 社長本人(給与ソフトを使用)
給与計算にかかる時間 月 5時間(明細作成・確認・振込手続き含む)

以下の計算はあくまでモデルケースによる試算です。実際の損失額は会社の規模・業種・雇用条件によって大きく異なります。自社の状況は個別にご確認ください。

2. 損失①:残業代の計算ミスによる将来リスク

前回の記事で紹介した「7大ミス」の中でも、最も発覚したときのダメージが大きいのが残業代の計算ミスだ。

「職務手当は割増計算の基礎に入らない」という誤解

このモデルケースでは、従業員の給与が「基本給 25万円+職務手当 3万円」の構成になっている。多くの社長が「残業代の基礎は基本給だけ」と思い込んでいるが、職務手当は原則として割増賃金の基礎賃金に含めなければならない(労基法施行規則 第19条)。

📊 残業単価の正しい計算
割増賃金の基礎賃金(月額)

基本給 250,000円 + 職務手当 30,000円 = 280,000円

1時間あたりの賃金(所定労働時間 160時間で計算)

280,000円 ÷ 160時間 = 1,750円/時間

正しい残業単価(25%割増)

1,750円 × 1.25 = 2,187円/時間

よくある誤った計算(基本給のみで計算した場合)

250,000円 ÷ 160時間 × 1.25 = 1,953円/時間

1時間あたりの差額:2,187円 − 1,953円 =
234円
の未払いが毎時間発生している

固定残業代の超過分も払っていないケース

さらに、このモデルケースでは固定残業 20時間を超えた分(月 5時間)を追加払いしていないと仮定する。固定残業代が適法に機能するには、超過した時間分の残業代を別途支払うことが前提だ。

📊 1人あたりの月間未払い額の試算
基礎計算ミスによる不払い分(25時間 × 234円)

5,850円/月

固定残業超過分の未払い(5時間 × 2,187円)

10,935円/月

1人あたりの月間未払い額
約 16,785円
従業員8名なら月 約134,280円 の未払いが積み重なっている

これが発覚したとき、過去3年分を遡って支払う義務が生じる。

3年遡及した場合の試算

134,280円/月 × 36ヶ月 = 約 483万円の未払い賃金

裁判になった場合、さらに同額の付加金(最大 483万円)が命じられる可能性がある(労基法第114条)。

合計で最大 約 966万円のリスク。

3. 損失②:社会保険料の算定ミス(随時改定漏れ)

給与が変動したにもかかわらず随時改定の届け出を忘れるのは、給与計算を自分でやっている会社でよく見られるミスだ。

どんな場合に随時改定が必要か

昇給・手当の新設・固定的賃金の変更があり、変動後の報酬月額と現在の標準報酬月額の間に2等級以上の差が生じた場合、4ヶ月目から標準報酬月額を改定する手続き(随時改定)が必要になる。

📊 随時改定漏れによる過払い保険料の試算
ケース:6月に昇給で月給が26万円→28万円に変更、随時改定を忘れた場合

標準報酬月額 26万円等級 → 本来は28万円等級へ改定が必要

健康保険料(北海道・2026年度)の差額(会社・本人折半前の総額)

月額 約 2,000円 の過剰徴収(等級差×保険料率)

翌年の定時決定まで放置した場合(最大 9ヶ月)

2,000円 × 9ヶ月 = 18,000円の過不足が継続

1人あたり・1回の見落としで
数万円規模
の保険料過不足が生じる。複数人・複数回なら年間で10万円超になることも

過剰に徴収されていた場合は従業員への返還義務が生じる。逆に不足していた場合は会社が追徴される。どちらにせよ、事務処理と説明対応のコストが発生する。

給与計算のミスが経営リスク

4. 損失③:産休・育休中の保険料免除手続き漏れ

産前産後休業・育児休業中は、申請すれば社会保険料(会社負担分も含む)が免除される。これを知らずに手続きしていない会社は、もらえるはずのお金をみすみす払い続けていることになる。

📊 保険料免除を申請しなかった場合の損失
従業員(月給28万円・標準報酬月額28万円)が産休+育休で6ヶ月休業した場合

社会保険料の会社負担分(健康保険+厚生年金):月額 約 42,000円

免除申請をしなかった場合の損失
約 252,000円
42,000円 × 6ヶ月 = 会社が払わなくてよかったお金

少子化対策として社会保険料免除の制度は充実している。しかし「自動的に免除される」わけではなく、会社側から年金事務所に届け出なければならない。これを知らない中小企業は今でも多い。

5. 損失④:社長の「時間コスト」という見えない損失

金銭的なミスのリスクとは別に、もう一つ見落とされがちな損失がある。社長が給与計算に費やしている時間のコストだ。

📊 役員報酬80万円の社長の時間単価
月の稼働時間(1日 8時間 × 月 20日)

160時間

1時間あたりの「価値」(役員報酬 ÷ 稼働時間)

800,000円 ÷ 160時間 = 5,000円/時間

給与計算に費やしている時間(月 5時間)

5時間 × 5,000円 = 25,000円/月

社長が給与計算に費やしている機会損失
月 25,000円
年間で 300,000円 の「社長の時間」を給与計算に使っている

もちろん、役員報酬のすべてが「稼ぐ活動」に使われているわけではない。しかし社長の本来の仕事は、売上を作ること・顧客と向き合うこと・スタッフを育てることだ。月 5時間を給与計算ではなく営業や採用に使えたら、どれだけの差が生まれるか。

「給与計算くらい自分でやれる。外注するほどのことでもない」

この感覚は理解できる。しかし、月 25,000円の時間コストに「ミスによる将来リスク」を加えると、話は変わってくる。

6. 損失を合計するといくらになるか

ここまでの損失を一覧で整理する。

損失の種類 月額換算 最大リスク(3年)
残業代計算ミス(8名) 約 134,280円 約 966万円(付加金込み)
随時改定漏れ(複数人・複数回) 数千〜数万円 年 10万円超の可能性
産休育休保険料免除漏れ(1人6ヶ月) − 約 252,000円(1件あたり)
社長の時間コスト 約 25,000円 年 300,000円
合計(潜在リスク含む) 月 約 16万円〜 最大 1,000万円超
重要な前提

「966万円のリスクが確実に発生する」わけではない。残業代ミスは元従業員が動いたときに初めて表面化する。しかし動いたとき、会社には「知らなかった」という言い訳は通じない。

7. 社労士に外注した場合のコストと比較

では、社労士に給与計算を依頼したらいくらかかるのか。

💡 給与計算顧問の相場(8名規模・北海道の目安)

月額 20,000円〜35,000円 程度(従業員数・給与の複雑さによる)。当事務所の場合は従業員規模と内容をお聞きして個別にご提案しています。

比較項目 社長が自分でやる場合 社労士に外注する場合
月額コスト 時間コストのみ(約 25,000円相当) 顧問料 月 20,000〜35,000円
ミスの発見 発覚するまで気づかない 毎月チェックが入る
法改正対応 自分で調べて反映(見落としリスク高) 自動反映(社労士が対応)
随時改定・免除手続き 知らなければ漏れる 都度確認・手続き代行
従業員からの質問への対応 社長が対応(時間と精神的負担) 社労士が対応または助言
将来リスク(残業代請求等) 数百万〜1,000万円超の可能性 リスクを大幅に低減できる

月 20,000〜35,000円の顧問料と、月 25,000円の時間コストを比較すれば、コスト面ではほぼ同等かむしろ外注のほうが安い計算になる。そこに「将来リスクの低減」と「法的正確性の担保」が加わる。

「健康診断」としての給与計算診断

いきなり顧問契約に踏み切るのが難しい場合は、まず給与計算の診断(スポット依頼)から始める方法もある。現在の計算が正しいかどうかを一度プロに見てもらうだけでも、リスクの所在が明確になる。

💡 五合庵の給与計算スポット診断

現状の給与計算書・就業規則・勤怠記録をもとに、ミスや法的リスクがないかを確認します。シンプルなもので 22,000円〜、作業量によって 33,000〜55,000円 のご提案になります。診断後、継続サポートが必要かどうかはお客様が判断してください。

8. まとめ|「自分でやる」判断の前に知っておくべきこと

給与計算を社長が自分でやることを否定したいわけではない。小規模でシンプルな雇用形態なら、自分でやる選択肢も合理的だ。

ただし、次の条件が揃っているかどうかは確認してほしい。

  • 固定残業代がある場合、超過分を必ず追加で払っている
  • 割増賃金の基礎賃金に何を含めるか、正しく把握している
  • 昇給・手当変更のたびに随時改定の要否を確認している
  • 産休・育休が発生したとき、保険料免除の申請をタイムリーにできる
  • 賃金台帳を電子データで 3〜5年分保存している
  • 法改正(最低賃金・保険料率)を毎年自分で確認して反映できる

全部に「はい」と答えられるなら、自分でやるコストメリットは確かにある。しかし一つでも「わからない」「できていない」があるなら、今が見直しのタイミングだ。

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よくある質問(Q&A)
Q. 役員報酬は残業代の計算に関係しますか?
役員は原則として労働基準法の適用外のため、残業代の支払い義務はありません。この記事の残業代計算は、役員ではなく一般従業員を対象にしたものです。役員の給与設計についてはご相談ください。

Q. 随時改定はいつまでに手続きすればよいですか?
固定的賃金の変動があった月から起算して、3ヶ月後の報酬の平均額が2等級以上変動した場合、その翌月(4ヶ月目)から改定が適用されます。手続きは変動後3ヶ月の賃金が確定した後、速やかに行うのが原則です。

Q. 給与計算の診断だけお願いすることはできますか?
はい、スポットでの診断のみのご依頼も承ります。現在の給与計算書・就業規則・勤怠記録をご共有いただき、法的リスクの有無をご報告します。診断後に顧問契約をご検討いただくかどうかはお客様の判断で構いません。

Q. 社労士への給与計算外注で、従業員の給与情報を共有することに抵抗があります。
ご心配はよく理解できます。社労士には守秘義務(社会保険労務士法第21条)があり、業務上知り得た情報を外部に漏らすことは法律で禁じられています。また、個人情報の取り扱いに関する取り決めを契約書に明記することも可能です。

Q. 給与計算ソフトを使っていれば問題ないのでは?
ソフトは「正しく設定・入力されていれば」正しく計算します。しかし、割増賃金の基礎賃金に何を含めるか、随時改定が必要かどうかといった「判断」はソフトではできません。ソフトの出力が正しいかどうかを確認する人間の目が必要です。

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