社会保険の調査で何十万円も追徴されるのは「運」ではない ― 年金事務所に指摘される給与計算の7つのミス
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給与計算・社会保険
~ 年金事務所の調査で追徴される「本当の原因」と今日からできる対策 ~
「数年に一回、年金事務所の調査が入って、何十万か取られるんだよな」
こうおっしゃる社長は少なくありません。そして、たいていは「まあ運が悪かった」「役所に取られた」で片付けて、翌日からまた同じやり方で給与計算を続けています。
しかし、はっきり申し上げます。年金事務所の調査で追徴されるのは「運」ではありません。給与計算のどこかにミスがあるから、そこを指摘されているのです。
そして、そのミスは次の調査でも繰り返されます。同じ原因が残っている限り、数年おきに何十万円かを持っていかれる構造は変わりません。
この記事では、社会保険労務士として数多くの調査に立ち会ってきた経験から、自分で給与計算をしている中小企業の社長が見落としやすいポイントを7つに絞って解説します。最後に、今すぐ使える「セルフチェック表」もお付けしていますので、ぜひ一度ご自身の会社に当てはめてみてください。

まず、ひとつ確認させてください。年金事務所の調査で「追徴」されるお金は、罰金ではありません。本来納めるべきだった保険料です。
つまり、「取られた」のではなく、「払い忘れていた分をまとめて請求された」というのが正確な表現です。
ここを「運が悪かった」で済ませてしまうと、次のような悪循環に入ります。
追徴の悪循環
ミスに気づかないまま計算を続ける → 数年後、調査が来る → 2年分遡って追徴される → 「また取られた」と感じる → でも計算方法は変えない → また数年後に同じことが起きる
逆に言えば、原因さえ特定すれば、次の調査では何も指摘されないということでもあります。追徴ゼロの調査は、実際にたくさんあります。
「調査」と聞くと身構えてしまいますが、まずはどんなものか知っておくだけで不安はかなり減ります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 算定基礎届の調査 | 毎年7月の届出に合わせて実施される定期調査。もっとも件数が多い。届出内容と賃金台帳を照合し、報酬月額が正しいかを確認する |
| 総合調査 | 4〜5年に一度、すべての届出を総合的にチェックする調査。加入漏れ・届出漏れがないかを幅広く確認する |
| 特別調査 | 届出状況に不審な点がある場合に行われる。通報や退職者からの問い合わせがきっかけになることも |
- 賃金台帳(直近2年分)
- 出勤簿またはタイムカード
- 源泉徴収簿
- 雇用契約書(労働条件通知書)
- 就業規則・賃金規程(あれば)
- 法人の登記簿謄本
調査では「届け出た数字」と「実際に支払った給与」を突き合わせます。届出の数字だけ見るのではなく、賃金台帳の実額と比べるのです。自分で計算していてミスがあると、ここでズレが見つかります。
以下は、当事務所が調査に立ち会った経験と、年金事務所が近年とくに重点的にチェックしている項目をもとにまとめたものです。
昇給や手当の変更で、固定的な賃金が変わったとき、変更後3か月間の平均額が2等級以上変動したら届出が必要です。しかし、自分で計算している社長は「算定基礎届は毎年出している」けれど、この随時改定を忘れていることが非常に多いです。
4月に基本給を2万円上げた → そのまま9月の算定で反映されると思っていた → 実際は5月・6月・7月の3か月平均で2等級以上変わっていれば、8月から改定しなければならなかった → 4か月分の差額を追徴
報酬月額には、基本給だけでなく通勤手当・残業代・住宅手当・家族手当など、労働の対価として毎月支給されるものをすべて含めます。「手当だから別」と思って除外していると、報酬月額が実際より低く届出されてしまいます。
とくに多い見落とし:通勤手当
所得税では非課税の通勤手当ですが、社会保険では報酬に含めます。ここは税金と社保で扱いが違うため、自分で計算している社長がもっとも間違えやすいポイントです。
賞与を支払ったら5日以内に届出が必要です。「少額だから」「決算賞与だから」という理由で届出を省略すると、調査で確実に指摘されます。年2回の定例賞与だけでなく、年3回以下のすべての一時金が対象です。
年4回以上支給される賞与は「報酬」として月額に含めます。四半期ごとの業績手当などがこれに該当する場合があります。
「パートだから社保に入れなくていい」と思い込んでいるケースです。正社員の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上働いていれば、加入させなければなりません。
さらに、2024年10月からは従業員51人以上の企業で短時間労働者の適用が拡大されました。今後、対象がさらに広がる可能性もあります。
週30時間のパートさんを「パートだから」と社保に入れていなかった → 正社員の所定労働時間が40時間の会社なら、30時間は4分の3(30時間)以上 → 加入義務あり → 最大2年分の保険料を追徴
会社が社宅を提供している場合や、食事を支給している場合は、その経済的利益が報酬に加算されます。厚生労働大臣が定める「現物給与の価額」に基づいて計算します。知らないと報酬月額が過少になり、調査で指摘されます。
役員報酬を変更した場合も、随時改定(月額変更届)の対象です。とくに、社長ご自身の役員報酬の変更を届け忘れるケースが意外と多いです。「自分のことだから後でいいや」と後回しにして、そのまま忘れてしまうパターンです。
入社日から5日以内に資格取得届、退職日の翌日から5日以内に資格喪失届を提出する必要があります。「月末にまとめて届出」にしていると、タイミングがずれて指摘の対象になります。とくに、月途中の入退社が多い会社は要注意です。

「ミスがあっても、金額は大したことないだろう」と思うかもしれません。しかし、社会保険料の時効は2年です。ミスが見つかると、最大で過去2年分をまとめて請求されます。
健康保険料+厚生年金保険料 = 給与の約30%(会社負担+本人負担の合計)
25万円 × 30% = 月額 約75,000円
75,000円 × 24か月 = 約180万円の追徴
※会社負担分は約半額の90万円。ただし退職済みの従業員の本人負担分を回収できない場合、会社が全額負担するケースもあります。
これが2人、3人と重なれば、数百万円になることもあります。そして、退職した従業員の本人負担分を後から回収するのは、実際にはかなり困難です。
追徴は「現金一括」が原則です
追徴保険料は原則として翌月末までに現金で納付します。分割は応相談ですが、資金繰りに大きな影響を与えます。「数年に一度、何十万円」の正体は、この仕組みです。
逆に考えれば、毎月の給与計算が正しければ、追徴は発生しません。調査に来ても「問題なし」で終わります。「何十万円取られる」ことは運命ではなく、防げるコストなのです。
以下のチェック表で、ご自身の会社の状況を確認してみてください。ひとつでも「いいえ」がある場合は、調査で指摘される可能性があります。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 1. 昇給・手当変更があったとき、3か月後に月額変更届が必要かどうかを毎回確認している | はい/いいえ |
| 2. 算定基礎届の報酬月額に、通勤手当を含めて計算している | はい/いいえ |
| 3. 算定基礎届の報酬月額に、残業代・休日出勤手当を含めて計算している | はい/いいえ |
| 4. 賞与を支給したら、毎回5日以内に賞与支払届を提出している | はい/いいえ |
| 5. パート・アルバイトの週の所定労働時間を把握しており、正社員の4分の3以上の人は社保に加入させている | はい/いいえ |
| 6. 社宅の提供や食事の支給がある場合、現物給与として報酬に加算している | はい/いいえ |
| 7. 社長ご自身の役員報酬を変更したとき、月額変更届を出している | はい/いいえ |
| 8. 従業員の入社・退職があったとき、5日以内に届出している | はい/いいえ |
| 9. 70歳以上の従業員がいる場合、「70歳以上被用者該当届」を提出している | はい/いいえ |
| 10. 前回の調査で指摘された事項を、その後修正して運用に反映している | はい/いいえ |
10項目すべて「はい」 → 安心です。次の調査も問題ないでしょう。
1〜3項目が「いいえ」 → 追徴リスクがあります。該当箇所を見直してください。
4項目以上が「いいえ」 → 次の調査で指摘される可能性が高いです。一度、専門家に見てもらうことをお勧めします。
「いいえ」がいくつかあった社長にお伝えしたいことがあります。
ここまで一人で給与計算を回してきたこと自体が、すごいことです。
従業員が複数の現場に散らばる会社で、毎日の出退勤を管理し、エクセルで計算し、届出もこなす。事務員を雇わずに社長自ら。それは決して簡単なことではありません。
ただ、社会保険のルールは毎年のように変わります。2024年の適用拡大、算定基礎届の様式変更、現物給与の価額改定。一人で全部追いかけるのは、もう限界が来ている会社も多いのではないでしょうか。
そこで選択肢は3つあります。
| 選択肢 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| A. 自分で直す | この記事のチェック表をもとに、該当箇所を調べて修正する。時間はかかるが費用はゼロ | 0円 |
| B. スポットで診てもらう | 社労士に直近3か月分の給与明細・届出を見てもらい、ミスの有無と修正方法をレポートで受け取る | 22,000円〜 |
| C. 給与計算ごと任せる | 毎月の計算・届出・法改正対応をすべて外注する | 月額2〜5万円程度 |
もちろん、Aで十分という会社もたくさんあります。チェック表で1〜2項目だけ引っかかった場合は、該当箇所を自分で修正するだけで大丈夫です。
一方、「4項目以上に不安がある」「前回の調査でも指摘されたのに直せていない」という場合は、一度プロに見てもらったほうが結局安くつきます。数年後の追徴で何十万円払うか、今22,000円で診断するか。どちらが合理的かは明らかです。
当事務所では、給与計算に不安をお持ちの経営者向けに、スポットの給与計算チェックを承っています。
| メニュー | 内容 | 料金(税込) |
|---|---|---|
| ライトチェック | 直近3か月の給与明細を確認し、社保の加入漏れ・割増率・届出の整合性をチェック。指摘事項をレポートでお渡し | 22,000円 |
| スタンダードチェック | ライト+算定基礎届・月額変更届との突合、36協定との整合確認 | 33,000円 |
| フルチェック | スタンダード+複数現場の勤怠管理方法の整理・改善レポート付き | 55,000円 |
「顧問契約をしなければ」というプレッシャーはありません。チェックだけで終わっても構いません。まずは今の状態を正確に把握することが、次の調査への最大の備えです。
「チェック表で引っかかった」「前回の調査で指摘されたまま放置している」
そんな方は、まずはお気軽にご相談ください。
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