2社目の会社を作ったら社会保険料はいくら増える?二以上事業所勤務の仕組みを社労士が計算で解説
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給与計算・社会保険
~ 「保険料が倍になった!」は本当か。二以上事業所勤務の仕組みを数字で解説 ~
「2社目の会社を作って、自分に役員報酬を10万円出すことにしたんです。そうしたら、新しい会社にも社会保険料の納付書が来て……。報酬は10万円しかないのに、保険料が3万円近いんですよ。これ、何かの間違いじゃないですか?」
これは、すでに1社を経営している社長が新会社を設立したときに、とてもよくいただくご相談です(実際の事例をもとに、業種や金額を変えています)。
結論から言うと、計算は間違っていません。ただし、社長が感じている「保険料が倍になった」「丸ごと上乗せされた」という感覚も、実は正しくありません。2社から報酬を受け取ると、社会保険は「二以上事業所勤務(にいじょうじぎょうしょきんむ)」という特別な計算方法に切り替わるからです。
この記事では、架空の社長を例に、2社目を作ると社会保険料が実際いくら増えるのかを、令和8年度の保険料率で計算してお見せします。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、1人の人について「1つの加入」しか持てません。2社から報酬を受け取っても、健康保険証が2枚になるわけではありません。
そのため、2社以上で被保険者になる人は、次の2ステップで保険料が決まります。
A社の報酬とB社の報酬を足した金額で、保険料の基準となる「標準報酬月額」が1つ決まります。
決まった保険料を、それぞれの会社の報酬額の割合で分け合います。A社40万円・B社10万円なら、A社が4/5、B社が1/5を負担する形です。
報酬が10万円の会社でも、保険料は「10万円の人の保険料」にはなりません。「合計50万円の人の保険料」の1/5になります。だから、報酬の割に保険料が高く見えるのです。
次の架空事例で計算してみます。
| 項目 | A社(既存) | B社(新設) |
|---|---|---|
| 業種 | 広告代理業 | 映像制作業 |
| 社長の役員報酬(月額) | 400,000円 | 100,000円 |
| 従業員 | 3名 | なし(社長のみ) |
※計算条件:令和8年度・協会けんぽ北海道支部(健康保険料率10.28%+子ども・子育て支援金率0.23%)、厚生年金保険料率18.3%、社長は40歳未満(介護保険料なし)。以下の金額は社長1人分です。
| 項目 | B社設立前 (A社のみ) |
B社設立後 (2社合計) |
|---|---|---|
| 報酬の合計 | 400,000円 | 500,000円 |
| 標準報酬月額 | 410,000円 | 500,000円 |
| 健康保険料(本人分) | 21,545円 | 26,275円 |
| 厚生年金保険料(本人分) | 37,515円 | 45,750円 |
| 本人負担の合計 | 59,060円 | 72,025円 |
B社設立後の72,025円は、A社とB社で次のように分けて天引きします。
| 会社 | 按分割合 | 天引き額(本人分) |
|---|---|---|
| A社 | 4/5(40万÷50万) | 57,620円 |
| B社 | 1/5(10万÷50万) | 14,405円 |
| 合計 | ― | 72,025円 |
「A社の保険料はそのまま。そこにB社の保険料がまるごと上乗せされた」
本人負担は月59,060円 → 72,025円で、増加は月12,965円(年間約15.6万円)。報酬が月10万円増えたことに見合った増加です。しかもA社での天引き額は59,060円 → 57,620円と、むしろ少し減ります。
年金事務所から届く納付書の金額(社長1人分)で比べると、次のとおりです。会社負担分には、全額事業主負担の「子ども・子育て拠出金(0.36%)」も含みます。
| 項目 | 社長1人分の納付額 |
|---|---|
| B社設立前(A社のみ) | 119,597円 |
| B社設立後:A社分 | 116,680円 |
| B社設立後:B社分 | 29,170円 |
| B社設立後:2社合計 | 145,850円 |
冒頭の社長が驚いた「報酬10万円なのに3万円近い」というのは、このB社分29,170円のことです。しかし、A社の納付額は約3,000円減っています。2社を合わせて見れば、増えたのは月26,253円(会社負担と本人負担の合計)です。
B社の納付書だけを見ると「高すぎる」と感じますが、2社をセットで見るのが正しい見方です。また、厚生年金の保険料が増えた分、将来受け取る年金額も増えます。単なる「負担増」ではありません。

法人は、役員報酬を受け取る社長が1人だけでも社会保険の加入が義務です。2社目を作って役員報酬を出す場合、次の手続きが必要になります。
B社を社会保険の適用事業所にする手続きです。設立後、報酬の支払いが始まる段階で届け出ます。
正式名称は「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」。2社で被保険者になった日から10日以内に、どちらか1社(選択事業所)を管轄する年金事務所へ提出します。届出の義務者は被保険者本人ですが、実務上は会社や社労士が作成・提出するのが一般的です。
届出の後、年金事務所から各社に「標準報酬月額」と「按分した報酬額」の決定通知書が届きます。この通知書をもとに、各社の給与計算で天引き額を設定します。
⚠ 注意:決定通知書は後から届きます
届出から決定通知が届くまでには時間がかかり、保険料は2社で被保険者になった月にさかのぼって決定されます。通知書を待っている間に給与計算を「とりあえず」で進めると、後で差額の精算が必要になります。
社長1人だけの会社では給与計算を後回しにしがちで、「納付書は払っているのに、社長の役員報酬からは本人分を引いていなかった」というケースがよくあります。
このとき注意したいのが、給与から天引きできるのは原則として「前月分」の保険料だけというルールです(健康保険法第167条・厚生年金保険法第84条)。何ヶ月分もまとめて後から天引きすることは、原則としてできません。社長本人のことなので揉めることは少ないですが、会社の帳簿上は「立替金」などで処理する必要があり、税理士さんとの調整も発生します。
届出をしないまま、A社・B社それぞれで別々に保険料を払っているケースもあります。この状態だと標準報酬月額が正しく決まらず、後から年金事務所の調査などで判明すると、さかのぼって保険料の差額を精算することになります。
- B社の社会保険の新規適用届を出したか
- 二以上事業所勤務届を10日以内に出したか
- 年金事務所からの決定通知書を、2社分とも保管しているか
- A社・B社それぞれの給与計算で、按分後の天引き額を設定したか
- どちらかの会社で役員報酬を変更するとき、もう一方の会社にも影響することを知っているか
- 賞与(役員賞与)を出すときも、2社合算で計算されることを知っているか
なりません。二以上事業所勤務では2社の報酬を合算して標準報酬月額を決めるため、1社で同じ金額を受け取る場合と保険料の合計はほぼ同じです。「会社を分ければ社会保険料が下がる」という話を聞いたら、注意してください。
役員報酬を支払わない場合、社長はB社では社会保険の被保険者になりません。その場合、二以上事業所勤務届も不要です。ただし、報酬の設定は税金面にも影響するため、税理士さんと相談のうえで決めることをおすすめします。
健康保険の保険者が異なる場合は、被保険者本人がどちらの保険者に加入するかを選択します。選択した保険者で、2社合算の標準報酬月額をもとに保険料が決まります。
社長などの役員は、原則として雇用保険の対象外です。なお、従業員が2社で雇用される場合も、雇用保険は原則として主たる賃金を受ける1社でのみ加入します(65歳以上の方の特例を除く)。
まず、いつから・何ヶ月分漏れているかを確認します。前月分を超える保険料は給与から一括で天引きできないため、本人との精算方法を決めて記録に残す必要があります。会計処理も絡むため、早めに社労士・税理士にご相談ください。
2社目の会社を作ったときの社会保険料のポイントをまとめます。
- 2社から報酬を受け取ると、報酬を「合算」して標準報酬月額が決まる
- 保険料は報酬の割合で各社に「按分」される
- B社の納付書だけ見ると高く見えるが、2社合計で見れば報酬増加に見合った増加
- 二以上事業所勤務届は10日以内。決定通知書はさかのぼって届く
- 天引き漏れは後から取り戻しにくい。最初の給与計算から正しく設定する
2社目の設立は、社長にとって大きなチャンスです。だからこそ、社会保険の手続きと給与計算でつまずいて、余計な手間やお金をかけたくはありません。役員報酬をいくらにするか決める段階でご相談いただければ、2社合計の保険料や手取り額を事前にシミュレーションできます。
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