年末調整・給与計算のミスは誰の責任?会社の負担と、担当者への始末書・弁償の線引き【社労士が解説】
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給与計算・年末調整
~ 給与計算シリーズ|担当者がミスをしたとき、社長が最初に知っておきたい「お金」と「処分」の線引き ~

「社長、すみません。去年の年末調整で、計算を間違えていたみたいです」
総務担当者からこう言われたとき、社長の頭に浮かぶのは次のような疑問ではないでしょうか。
- 足りなかった税金は、誰が払うのか
- 税務署から罰金のようなものを取られるのか
- 従業員にどう説明すればいいのか
- ミスをした担当者に、始末書や弁償をさせてよいのか
しかも令和8年分(2026年)の年末調整は、制度が大きく変わる年です。国税庁の資料によると、主な変更点は次のとおりです。
| 変わる点 | 令和8年分の内容 |
|---|---|
| 基礎控除 | 合計所得金額に応じて段階的に引き上げ(最大104万円) |
| 給与所得控除の最低保障額 | 65万円 → 74万円 |
| 扶養親族などの所得要件 | 合計所得金額58万円以下 → 62万円以下(給与収入だけなら目安123万円 → 136万円) |
| 生命保険料控除 | 23歳未満の扶養親族がいる人は、一般生命保険料控除の上限が4万円 → 6万円 |
※11月までの毎月の源泉徴収は改正前のまま行い、12月の年末調整で改正後のルールでまとめて精算します。詳しくは国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」をご確認ください。
扶養の判定基準や控除の段階が変わると、去年と同じやり方のままでは計算がずれます。給与ソフトの更新漏れ、古い様式の申告書の使い回し、扶養の判定の勘違い。今年はいつも以上にミスが起きやすい年です。
この記事では、年末調整や給与計算でミスが起きたとき「誰が、何を、どこまで負担するのか」を、社長の立場から整理します。
先に結論をまとめます。
| お金・責任 | 誰が負うか |
|---|---|
| 税務署に不足分を納める義務 | 会社(源泉徴収義務者だから) |
| 足りなかった所得税そのもの | 従業員本人(もともと本人の税金)。会社が納めた分は本人に精算してもらう |
| 不納付加算税・延滞税 | 原則として会社(納付が遅れた会社へのペナルティ) |
| ミスをした担当者の責任 | 注意・指導や懲戒処分は就業規則の範囲で。全額の弁償や給料からの天引きは原則できない |
税金は「本人のもの」、ペナルティは「会社のもの」、担当者のミスは「会社の仕組みの問題」として扱うのが基本です。順番に見ていきます。
年末調整は、会社が従業員に代わって1年間の所得税を精算する手続きです。給料から所得税を差し引いて国に納める立場の会社を「源泉徴収義務者」といいます。
そのため、計算を間違えて所得税が足りなかった場合、税務署は会社に対して不足分を納めるよう求めます。「担当者が間違えた」「従業員の申告書が間違っていた」という事情があっても、国に対して納める義務を負うのは会社です。
架空の例で考えてみます。社員10人の会社で、総務担当者が年末調整をしました。ある社員の高校生の子どもを扶養親族として申告どおり扶養控除(38万円)の対象にしましたが、実はその子のアルバイト収入が年150万円あり、扶養の基準(今年は給与収入136万円以下が目安)を超えていました。
この場合、扶養控除38万円は使えません。その社員の所得税率が5%なら、足りなかった所得税は約1万9,000円(復興特別所得税を含む)。会社はこの分を税務署に納め、本人から精算してもらうことになります。住民税にも影響が出ます。
会社で年末調整をやり直す(再年末調整)ことができます。源泉徴収票を正しい内容で作り直し、不足分を本人から精算します。
直し方がもう一段複雑になります。手順と住民税への影響は「年末調整のミスに後から気づいたら」で詳しく解説しています。
源泉所得税を期限までに正しく納めていなかった場合、不足分に加えて次のようなペナルティがかかることがあります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 不納付加算税 | 原則として不足税額の10%。税務署から指摘される前に自分から納めた場合は5%に下がり、一定の条件を満たせばかからないこともあります |
| 延滞税 | 納付が遅れた日数に応じてかかる利息のようなもの。令和8年中は、納期限の翌日から2か月までが年2.8%、それ以降は年9.1% |
※延滞税の割合は国税庁「延滞税の割合」(令和8年1月1日以後)によります。加算税がかかるかどうか、具体的な金額は事情によって変わるため、顧問の税理士の先生にご確認ください。
⚠ 一番損をするのは「放置」
不納付加算税は、税務署に指摘される前に自分から直すかどうかで率が変わります。延滞税も日数で増えていきます。ミスに気づいたら、隠さず、早く直すことが会社のお金を守る一番の近道です。
「金額も小さいし、本人に言いにくいから会社で払っておこう」と考える社長もいます。しかし、本来は従業員本人が負担する所得税を会社が肩代わりすると、その分は本人への給与(経済的な利益)として扱われ、さらに課税の問題が出てきます。気持ちはわかりますが、きちんと本人に説明して精算するのが原則です。
会社のミスで追加の負担をお願いするのは、言い出しにくいものです。ただ、ここでの対応が従業員の信頼を左右します。
「何を間違えたのか」「正しい金額はいくらか」「いくら足りなかったのか」を一枚にまとめます。口頭だけで済ませると、後で「聞いていない」となりがちです。
担当者個人に謝らせるのではなく、会社としてお詫びします。従業員から見れば、給与計算は「会社がやったこと」です。
次の給料からの精算、分割、振込など、本人の負担が少ない方法を相談して決め、書面に残します。所得税法では、会社が本人に代わって納めた税額を本人に請求したり、その後の支払いから差し引いたりできる定めがありますが(所得税法222条)、トラブルを避けるためにも本人の了解を取って進めるのが安心です。
「年末調整で足りない分が出たので、来月の給料から引いておきます」
「会社の確認不足で、扶養控除の判定を誤っていました。申し訳ありません。正しく計算し直すと所得税が約1万9,000円不足しています。来月と再来月の給料から半分ずつ精算させていただけますか」
反対に、ミスで税金を多く取りすぎていた場合は、会社から本人へ速やかに返します。こちらは本人に損がないので後回しにされがちですが、放置すると不信感につながります。

ここからが、社労士として一番お伝えしたいところです。ミスをした担当者に対して、社長がやってよいこと・やってはいけないことには、労働基準法と裁判例による線引きがあります。
始末書は、多くの会社で「けん責」という懲戒処分の一つとして扱われます。懲戒処分をするには、就業規則に懲戒の種類と理由が書かれていて、それが従業員に周知されていることが前提です。就業規則がない、または懲戒の定めがない会社では、処分としての始末書は求められません。
また、うっかりミス1回に重い処分をすると、処分が重すぎるとして無効になるおそれがあります。初めてのミスなら、処分ではなく「何が起きたか・どう防ぐか」をまとめた報告書(顛末書)を書いてもらう方が、再発防止にも役立ちます。
会社が負担した加算税や延滞税を「お前のミスだから払え」と担当者に請求できるか。結論からいうと、全額の請求は原則として認められません。
裁判所は、従業員が仕事中のミスで会社に損害を与えた場合でも、会社は事業で利益を得ている以上、その危険も負担すべきだという考え方をとっています。有名な最高裁判決(茨石事件・昭和51年)では、会社が請求できるのは損害の4分の1までとされました。故意や重大な過失がなければ、請求自体が認められないことも多いのが実情です。
⚠ やってはいけないこと
・「ミス1回につき〇円」などと、罰金や賠償額を前もって決めておく → 労働基準法16条で禁止されています
・損害額を担当者の給料から一方的に差し引く → 給料は全額を支払うのが原則です(労働基準法24条)
就業規則に定めがあれば、懲戒処分として減給することはできます。ただし金額には上限があります(労働基準法91条)。
- 1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額まで
- 何回か処分が重なっても、合計で1回の給料総額の10分の1まで
例えば平均賃金が1日1万円の人なら、1回の減給は5,000円までです。「ミスの損害を減給で取り返す」ことはできない仕組みになっています。
担当者を責めても、なくなったお金は戻りませんし、担当者が辞めてしまえば年末調整ができる人がいなくなります。給与担当者が突然辞めた会社がどうなるかを見てきた立場からいえば、ミスをした人を追い詰めるより、ミスが起きても気づける仕組みを作る方が、会社にとってずっと得です。
年末調整や給与計算のミスは、担当者が不注意だから起きるとは限りません。1人で全部を抱えている、去年のやり方をそのまま繰り返している、制度の変更を知る機会がない。多くは仕組みの問題です。
今年の年末調整の前に、最低限ここだけは確認しておきましょう。
| 令和8年分 年末調整のチェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 給与計算ソフトが令和8年分の改正に対応したバージョンに更新されているか | □ |
| 扶養控除等申告書・基礎控除申告書などが、令和8年分の新しい様式になっているか | □ |
| 扶養親族の判定を、新しい基準(給与収入136万円以下が目安)で確認したか | □ |
| アルバイトをしている家族の収入を、本人に確認したか | □ |
| 23歳未満の扶養親族がいる人の生命保険料控除(上限6万円)を反映したか | □ |
| 計算した人とは別の人が、結果を確認する手順があるか | □ |
最後の「別の人が確認する」が、実はいちばん効果があります。社員数人の会社では担当者が1人しかいないことも多いので、その場合は外部の目を入れるのが現実的です。どんなミスが起きやすいかは「年末調整の間違い10選」にまとめています。
税務署に不足分を納める義務は会社にあります。ただ、足りなかった所得税はもともと本人の税金なので、本人に精算してもらうことができます。申告書の内容に不自然な点があれば、受け取った段階で本人に確認する習慣をつけておくと防げます。
原則としておすすめできません。裁判例では、従業員の仕事上のミスによる損害を会社が請求できる範囲は大きく制限されています。給料から一方的に差し引くことも、労働基準法で禁止されています。
就業規則に懲戒の定めがなければ、処分としての始末書は求められません。事実関係と再発防止策をまとめた報告書を、業務として書いてもらうことは可能です。これを機に就業規則を整えておくと、今後のトラブルにも備えられます。
税務署に対して納める義務を負うのは、外部に頼んでいても会社です。そのうえで、依頼先との契約内容によって責任の分担が決まります。依頼する前に、ミスがあった場合の対応や、依頼先が賠償責任保険に入っているかを確認しておきましょう。

- 税務署に不足分を納める義務は会社にある
- 足りなかった所得税は本人の税金なので、説明して精算してもらう
- 加算税・延滞税は会社の負担。放置するほど増えるので、気づいたらすぐ直す
- 担当者への処分は就業規則の範囲で。全額の弁償や給料からの天引きは原則できない
- 令和8年分は改正が多い年。ソフトの更新・新様式・扶養の判定を事前に確認する
給与計算と年末調整は、担当者が1人で抱えるほどミスが起きやすく、起きても気づかれにくい仕事です。当事務所では、税金の判断が必要な部分は顧問の税理士の先生と連携しながら、給与計算と年末調整の「別の目」としてお手伝いしています。今年の年末調整に不安がある方は、提出前の一度だけのチェックからでもご相談ください。
給与明細・申告書・計算結果を拝見し、
ミスと手続きの漏れを社労士がチェックします。
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