ChatGPTに聞いた労務の答え、そのまま使うと危ない5つの場面|札幌の社労士が解説

AI時代の労務管理
~ AIは便利です。でも「御社の場合どうか」までは判断してくれません ~
「ChatGPTに聞いたら、こう書いてあったんですが…」
最近、こう切り出してご相談に来られる社長が増えました。調べてから相談に来られるのは、とても良いことです。実は当事務所でも、日々の業務でAIを使っています。調べものや文章の下書きは、以前とは比べものにならないほど速くなりました。
ただ、毎日AIの答えを実務と突き合わせていると、「一般論としては正しいけれど、この会社でそのまま使うと危ない」という場面に何度も出会います。この記事では、労務の現場で特に危ない5つの場面と、AIを上手に使うための線引きをお伝えします。
AIの答えは文章が整っていて、自信を持って書かれています。だからこそ、間違いに気づきにくいのです。理由は大きく3つあります。
AIは、ある時点までの情報をもとに答えています。労務の世界は、最低賃金、保険料率、社会保険の加入対象など、毎年のように数字やルールが変わります。AIが「去年の正解」を自信満々に答えることは珍しくありません。
同じ「残業代」の質問でも、就業規則の書き方、雇用契約書の中身、これまでの社内の慣行によって答えは変わります。AIは、聞かれた文章の範囲でしか考えられません。
AIの答えをもとに対応して、後から労基署の指摘や従業員とのトラブルになっても、AIは何も保証してくれません。最後に責任を負うのは、社長ご自身です。
AIの答えは「下調べ」としてはとても優秀です。問題になるのは、それを確認せずに、お金・書面・従業員への説明にそのまま使ったときです。
一番起きやすいのが、数字の古さです。たとえば北海道の最低賃金は、例年10月に改定されます。雇用保険料率も年度ごとに見直されます。社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させるべきパートの範囲も、段階的に広がっています。
AIに「北海道の最低賃金はいくら?」と聞き、出てきた金額で時給を決めた。実は改定前の金額で、気づかないまま数か月分の差額が発生していた。
AIで制度の仕組みをつかんだうえで、金額や率は厚生労働省・北海道労働局などの公式発表で必ず確認する。給与計算に反映する前に、専門家に一度チェックしてもらう。
給与計算のミスは、1回の金額は小さくても、毎月・全員分が積み重なります。後からまとめて精算することになると、社員の信頼も失いかねません。
「固定残業代を導入したい」とAIに聞くと、規定の書き方の例がすぐに出てきます。しかし、固定残業代が実際に有効と認められるかどうかは、書き方だけでは決まりません。
- 基本給と固定残業代の金額が、はっきり分けて示されているか
- その手当が本当に「残業の対価」として払われているか
- 想定時間を超えた分の差額を、毎月きちんと支払っているか
- 雇用契約書・給与明細・実際の運用が一致しているか
⚠ 固定残業代が無効と判断されると、その手当が「残業代の支払い」と認められず、さかのぼって残業代を請求されるおそれがあります。会社にとって最もダメージが大きい失敗の一つです。
AIに頼めば、それらしい就業規則のひな形が数分でできあがります。ところが、ひな形をそのまま使うと「会社の実態と合わない約束」をしてしまうことがあります。
- 休職期間を長く定めすぎて、会社の負担が想定以上になる
- 実際には払う予定のない手当や退職金の規定が、そのまま残っている
- シフト制や変形労働時間制など、実際の働き方が反映されていない
就業規則は、一度作れば会社を守る盾になりますが、内容が合っていなければ逆に会社を縛るものになります。なお、常時10人以上の従業員がいる事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられています。
問題のある社員への対応で、「退職をすすめるメールの文面を作って」とAIに頼むケースも増えています。文章自体は丁寧に仕上がりますが、注意が必要です。
⚠ 退職に関するメールや書面は、トラブルになったときに証拠としてそのまま残ります。言い回し一つで「退職を強要された」「実質的な解雇だ」と受け取られることがあります。
退職や解雇は、送る前の段取りがすべてです。それまでの注意指導の記録があるか、本人とどう話すか、どの順番で進めるか。文面より先に決めるべきことがたくさんあります。

残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間です。特別条項を結んだ場合でも、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、2〜6か月平均80時間以内(休日労働を含む)、月45時間を超えられるのは年6回まで、という上限があります。
AIはこうした一般的なルールは正しく答えることが多いのですが、次のような点で混乱しがちです。
- 「時間外労働だけ」で数える上限と、「休日労働を含めて」数える上限の区別
- 業種ごとの扱いの違い(建設業は2024年4月から上限規制が適用。災害の復旧・復興の事業には一部特例あり)
- 移動時間や朝の集合時間が「労働時間」に入るかどうかという、現場ごとの判断
特に建設業・運送業など、許可が必要な業種では、労務の違反が会社の信用や取引にも響きます。数字を当てはめる前に、「何を労働時間として数えるか」を固めることが先決です。
AIを使うな、という話ではありません。上手に使えば、社長の時間を大きく節約できます。大切なのは、どこまでをAIに任せ、どこから専門家に確認するかの線引きです。
| こんなとき | AIだけでOK? |
|---|---|
| 用語の意味や制度の概要を知りたい | ○ |
| 専門家に相談する前に、論点を整理したい | ○ |
| 給与・残業代など、お金の計算に使う | 要確認 |
| 就業規則・雇用契約書・通知書など、従業員に書面で渡す | 要確認 |
| 労基署・年金事務所・ハローワークに提出する | 要確認 |
| 退職・解雇・懲戒など、人の処遇を決める | 要確認 |
AIで調べた答えは、捨てずにそのまま専門家に見せてください。「AIはこう言っているけれど、うちの場合は?」という形で相談すると、話が早く、費用も時間も抑えられます。
調べものの多くはAIでできるようになりました。ただ、労務で本当に難しいのは「調べること」ではなく、御社の事情に当てはめて判断し、その判断に責任を持つことです。お金や書面、人の処遇が絡む場面では、専門家の確認を入れることをおすすめします。
届出自体は可能ですが、おすすめしません。実態と合わない規定が入っていると、後のトラブルで会社に不利に働くことがあります。最低でも、実際の働き方や賃金の払い方と一致しているかを確認してから届け出てください。
金額・率・日付が出てきたら、必ず厚生労働省や労働局などの公式情報で確認してください。また、「一般的には」「原則として」という表現が出てきたら、御社が例外にあたらないかを確認する合図と考えると安全です。
当事務所でも使っています。だからこそ、AIが得意なことと、間違えやすいことの違いを日々実感しています。AIで作業を速くし、その分の時間を、お客様の会社ごとの判断に使うようにしています。
給与計算・就業規則・残業代の扱いなど、
AIで調べた内容を社労士がチェックするスポット診断です。
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