建設業の「移動時間」「朝の集合」は労働時間? 未払残業代を請求される前に社長が知っておくべき線引き
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建設業の労務管理
~ 未払残業代を請求される前に、社長が知っておきたい線引き ~
朝6時半に資材置き場へ集合し、道具と材料を積み込んで、ハイエースで現場へ向かう。現場の作業は8時から17時まで。帰りに会社へ寄って片付けをして、解散は18時半ごろ。
建設業・設備業では、ごく当たり前の1日です。多くの社長は「給料は8時から17時の分」「移動や準備はサービスの範囲」と考えています。昔からそうしてきたし、従業員から文句を言われたこともない。
ところが、従業員が退職したあとで、この「朝の集合から夕方の解散まで」を労働時間として残業代を請求されるケースが増えています。労働基準監督署に申告されることもあります。
「業界の慣習だから」は、残念ながら理由になりません。
労働時間かどうかは、就業規則や社長の認識ではなく、「実際にどう働いていたか」という事実で判断されます。
2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、労働時間の管理が以前よりも厳しく見られるようになりました。この記事では、移動・集合・待機などの時間が労働時間になるかどうかの線引きを、ケースごとにわかりやすく整理します。
労働基準法には「労働時間とは何か」を直接定めた条文がありません。そこで基準になっているのが、最高裁の判例です。
造船所の従業員が「作業服への着替えや保護具の装着の時間も労働時間だ」と訴えた事件(三菱重工業長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決)で、最高裁は次のような考え方を示しました。
労働時間とは、従業員が会社の指揮命令の下に置かれている時間のこと。会社から義務づけられた行為や、事実上やらざるを得ない行為をしている時間は、就業規則にどう書いてあっても労働時間になる。
ポイントは「明確に命令したかどうか」ではない、ということです。「早く来いとは言っていない」という場合でも、集合しないと仕事が回らない、遅れると注意される、といった実態があれば、会社の指示があったと判断されやすくなります。これを「黙示の指示」と呼びます。
また、仮眠時間が争われた別の最高裁判例(大星ビル管理事件・平成14年2月28日判決)では、実際に作業をしていなくても、何かあればすぐ対応しなければならない状態なら労働時間にあたる、と判断されています。「手を動かしていない時間=休み」とは限らないのです。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月)でも、会社の指示による準備や後片付けの時間、すぐに作業できるよう待機している時間(手待ち時間)は労働時間として扱うよう示されています。
ここからは、建設業・設備業でよく問題になる場面ごとに整理します。実際の判断は個別の事情によって変わりますので、「こういう事情があると労働時間と判断されやすい」という目安としてお読みください。
| 場面 | 判断の目安 | 労働時間になりやすい事情 |
|---|---|---|
| 自宅から現場への直行・直帰 | 原則は通勤扱い | 途中で資材を受け取る、他の従業員を拾うよう指示されている |
| 会社に集合してから現場へ移動 | 労働時間になりやすい | 集合が義務、集合時に指示や打ち合わせがある、遅刻を注意される |
| 社用車の運転(運転者) | 労働時間になりやすい | 会社が運転者を決めている、資材や工具を運んでいる |
| 社用車の同乗(同乗者) | 事情による | 車内で打ち合わせをする、資材の管理を任されている、自由に過ごせない |
| 資材の積込み・帰社後の片付け | 労働時間になりやすい | 会社の指示または慣行として毎日行っている |
| 現場での待機・手待ち | 労働時間になりやすい | 前工程の完了や元請の指示を待っていて、すぐ動ける状態を求められている |
| 10時・15時の一服 | 事情による | 電話番や資材の見張りを任されている、呼ばれたらすぐ戻る必要がある |
| 冬の集合前の除雪 | 労働時間になりやすい | 当番制、または会社が黙認して毎朝行っている |
いちばん多く争いになるのがここです。「会社に集合 → 積込み → 現場へ移動」という流れの場合、集合した時点で会社の管理下に入っていると見られやすく、そこから先の移動も含めて労働時間と判断されることが多くなります。
一方で、「会社の車に乗るのは本人の希望で、自分の車で直行してもよい」「集合時に何の指示も作業もない」という実態があれば、通勤に近いと評価される余地もあります。大切なのは、集合が本当に任意なのかという点です。
会社の指示で社用車を運転している人の運転時間は、労働時間と判断されやすくなります。運転そのものが会社から任された業務だからです。
同乗者は判断が分かれます。車内で眠ったりスマホを見たりして自由に過ごせるなら、労働時間ではないと判断される方向に働きます。反対に、車内で当日の段取りを打ち合わせている、積んでいる資材の管理を任されている、という事情があれば労働時間に近づきます。
10時と15時の一服が本当に自由な時間であれば、休憩として扱えます。ただし「一服中も電話に出る」「資材を見張っている」「元請に呼ばれたらすぐ戻る」という状態なら、手待ち時間として労働時間になる可能性があります。
冬の朝、集合前に資材置き場や車両の周りを除雪する。北海道の建設業・設備業では避けて通れない作業です。社長が命じていなくても、若手が毎朝やっていることを知っていて黙認していれば、会社の指示があったのと同じに見られやすくなります。除雪は「やってくれて当然」ではなく、仕事として時間を管理する必要があります。
「朝と夕方の少しの時間」でも、毎日のことなので金額は大きくなります。架空の例で計算してみます。
【前提】月給25万円(基本給24万円+資格手当1万円)、月平均所定労働時間173時間
基礎時給:250,000円 ÷ 173時間 ≒ 1,445円
残業の時給(25%増):1,445円 × 1.25 ≒ 1,806円
争いになる時間:朝の集合〜現場到着 1時間+夕方の帰社〜片付け 1時間 = 1日2時間
1か月:2時間 × 21日 = 42時間 → 1,806円 × 42時間 ≒ 75,800円
3年分(36か月):約270万円
残業代の請求ができる期間(時効)は、2020年4月の法改正で2年から3年に延びています。従業員8人の会社で同じ働き方をしていれば、他の従業員からも同じ請求が来る可能性があります。
さらに上乗せされる可能性があるもの
・退職した従業員への賃金の支払いが遅れた場合の遅延損害金(年14.6%、賃金の支払の確保等に関する法律6条)
・裁判になった場合に、未払額と同額まで命じられることがある「付加金」(労働基準法114条)
※金額はあくまで架空の試算です。実際の金額は、勤怠の記録、給与の内訳、所定労働時間などによって大きく変わります。
大切なのは、「移動や準備をなくすこと」ではなく、実態を把握して、ルールと記録と給与を一致させることです。まずは自社の状況をチェックしてみてください。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 集合時刻・出発時刻・帰社時刻を、日報やアプリなどで記録している | □ |
| 集合が「義務」なのか「任意」なのかを、従業員に説明できる | □ |
| 社用車の運転者と、運転時間の扱いを決めている | □ |
| 一服や昼休みの時間は、本当に自由に過ごせている | □ |
| 冬の除雪を、誰がいつ何分やっているか把握している | □ |
| 就業規則や雇用契約書に、始業・終業の定義が書かれている | □ |
一番の基本です。紙の日報でも、スマホの勤怠アプリでもかまいません。社用車にGPSやドライブレコーダーを付けているなら、その記録も使えます。記録がないと、請求されたときに従業員の手帳やメモの時刻がそのまま採用されやすくなり、会社が反論できなくなります。
前日の夕方に積込みを済ませて翌朝は現場直行にする、積込み当番を決めてその人の時間は労働時間として払う、など段取りを変えるだけで、争いになる時間そのものを減らせます。
運転者の運転時間は労働時間として扱い、運転者を交代制にする。一服は電話番や見張りを付けずに全員が本当に休めるようにする。それが難しいなら、一服の時間は労働時間として扱う。どちらかにはっきり決めておくことが大切です。
除雪は当番制にして、始めた時刻と終わった時刻を記録し、その分の賃金を払う。冬季だけ始業時刻を前倒しにする方法もあります。「若い人が気を利かせてやってくれている」状態がいちばん危険です。
始業時刻が「集合時刻」なのか「現場到着時刻」なのかを明記し、移動時間の扱いも書いておきます。ただし、書類に書いただけでは足りません。前に説明したとおり、労働時間は実態で判断されます。規則と実際の働き方が一致していることが何より重要です。
移動や準備の時間を見込んで固定残業代(みなし残業代)を払う方法もあります。ただし、金額と時間数の明示や、超えた分の追加支払いなど守るべき条件があり、形だけの固定残業代は無効と判断されることがあります。導入前に必ず専門家に確認してください。
集合・移動・除雪の実態をうかがい、どこにリスクがあるかを整理します。
社会保険労務士・行政書士が対応します。
土日・夜間も受付 / 札幌市内・北海道全域・全国対応(オンライン可)
元従業員から内容証明が届いた、労働基準監督署から呼び出しの連絡が来た、という場合は、対策よりも先に「初動」が大切です。
・「業界ではこれが普通だ」と感情的に反論する
・記録を確認しないまま、口頭で「その時間は働いていない」と言い切る
・元従業員に直接連絡して、請求を取り下げるよう求める
・日報、給与明細、車両の記録など、手元にある資料を集める
・会社として把握している1日の流れを、時系列で書面にまとめる
・支払うべき部分と、事実確認が必要な部分を分けて整理する
労働基準監督署へ出頭するときに、会社側の事実関係をまとめた「経緯報告書」を持参すると、話し合いがスムーズに進みやすくなります。書き方は次の記事で詳しく解説しています。
- 労働時間かどうかは、就業規則や慣習ではなく「会社の指揮命令下にあったか」という実態で決まる
- 会社集合からの移動、運転、積込み、片付け、待機、除雪は労働時間と判断されやすい
- 1日2時間の差でも、3年分さかのぼると数百万円になることがある
- 対策の基本は、時刻の記録・段取りの見直し・ルールの明確化・規則と実態の一致
- すでに請求されている場合は、反論より先に資料を集めて事実を整理する
建設業・設備業の働き方は、現場ごとに事情がまったく違います。「うちの場合はどうなのか」が気になった社長は、お気軽にご相談ください。
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