「うちは固定残業代を払っているから大丈夫」が一番危ない ― 中小企業が知るべき5つの落とし穴
労務リスク対策
~ 「払っているつもり」が最も危ない。固定残業代の正しい運用と、今日からできる対策 ~
「うちは最初から残業代込みの給料にしてるから、未払いなんて関係ないよ」
中小企業の経営者から、こうした言葉をよく耳にします。いわゆる「固定残業代(みなし残業代)」という仕組みです。
確かに、固定残業代は法律で認められた制度です。正しく運用すれば、毎月の給与計算もシンプルになり、経営者にとってメリットのある仕組みです。
しかし、実際には「正しく運用できていない」会社が非常に多いのが現実です。
もし運用に不備があれば、固定残業代は「残業代として認められない」と判断され、過去3年分の未払い残業代を一括で請求されるリスクがあります。従業員5人の会社でも、数百万円になるケースは珍しくありません。
この記事では、札幌で多くの中小企業をサポートしてきた社労士の視点から、固定残業代が「無効」になる典型的なパターンと、今日から確認できるチェックポイントをわかりやすく解説します。
裁判所や労働基準監督署が「この固定残業代は無効」と判断する典型的なケースは、以下の5つです。1つでも当てはまると、制度全体が否定される可能性があります。
「月給25万円(残業代含む)」としか書いていない場合、これはアウトです。
固定残業代が有効であるためには、「基本給がいくらで、何時間分の残業代としていくら含まれているか」を明確に分けて記載する必要があります。
月給250,000円(固定残業代含む)
月給250,000円(基本給200,000円+固定残業手当50,000円/月30時間分)
口頭で「残業代込みだから」と伝えただけでは、法的に認められません。雇用契約書(労働条件通知書)と就業規則の両方に明記されていることが必要です。
特に創業時の口約束のまま何年も経っている会社は、要注意です。
「30時間分の固定残業代を払っている」としても、実際の残業が35時間なら、超過した5時間分は別途支払う義務があります。
「固定だから何時間残業しても同じ」という運用は、明確な労働基準法違反です。これは最もよくある誤解のひとつです。
月80時間分の固定残業代を設定している場合、そもそも過労死ラインを超えています。行政指導の対象になるだけでなく、公序良俗に反するとして無効と判断されるリスクがあります。
目安として、月45時間以内が安全圏です。
雇用契約書にきちんと書いていても、毎月の給与明細で「基本給」と「固定残業手当」が分けて表示されていなければ、実態として区別されていないと判断される可能性があります。
就業規則・雇用契約書・給与明細の「三点一致」が、固定残業代トラブルを防ぐ最大の防衛線です。
固定残業代が無効になった場合、影響は「これから直せばいい」では済みません。
| リスク | 具体的な内容 |
|---|---|
| 未払い残業代の一括請求 | 固定残業代が「基本給の一部」とみなされ、残業代はゼロ円しか払っていなかったことに。過去3年分を遡って請求される |
| 遅延損害金の上乗せ | 在職中は年3%、退職後は年14.6%の遅延損害金が加算される |
| 付加金の支払い | 裁判になった場合、未払い額と同額の付加金(=事実上2倍)の支払い命令が出る可能性 |
| 労基署の是正勧告 | 悪質と判断されれば、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 基本給単価の再計算 | 固定残業代が基本給に組み込まれるため、1時間あたりの単価が上がり、未払い額がさらに膨らむ |
たとえば月給25万円(うち固定残業代5万円)の従業員が月平均20時間残業していた場合、固定残業代が無効になると1人あたり3年間で約200〜300万円の未払い残業代が発生し得ます。従業員が5人いれば、1,000万円を超える請求になることも現実にあります。
以下の項目を確認してみてください。1つでも「いいえ」があれば、見直しが必要です。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 雇用契約書に「基本給○○円」「固定残業手当○○円(○時間分)」と明記している | □ |
| 就業規則にも固定残業代の計算方法・対象時間を記載している | □ |
| 給与明細で基本給と固定残業手当が別の欄に分かれている | □ |
| 固定残業時間を超えた分は、毎月きちんと追加で支払っている | □ |
| 固定残業時間は月45時間以内に設定している | □ |
| 求人票にも固定残業代の金額・時間数・超過分支払いの旨を記載している | □ |
| タイムカードや勤怠システムで、実際の残業時間を毎月記録している | □ |
いかがでしょうか。「なんとなく固定残業代を払っていたが、契約書を見直したことがない」という方は、かなり多いのが実情です。
2020年4月の労働基準法改正により、未払い残業代の請求権(消滅時効)は従来の2年から当面3年に延長されました。
そして法律の原則は「5年」です。現在の3年はあくまで経過措置であり、将来的に5年に完全移行する方向で議論が進んでいます。
仮に5年になれば、従業員1人あたりの請求額は現在の1.5倍以上に膨れ上がります。
「今まで何も言われなかったから大丈夫」ではなく、「言われる前に直す」ことが、最もコストの小さい対策です。
固定残業代の問題は、制度の作り方だけでなく、毎月の運用(勤怠管理・給与計算・明細の表記)に関わるため、一度見直して終わりではありません。
顧問の社労士がいれば、こうした対応が日常の中で自然にカバーされます。
- 雇用契約書・就業規則の固定残業代条項の点検と修正
- 給与明細の表記が法的要件を満たしているかの確認
- 毎月の勤怠データと固定残業時間の突合(超過分の精算漏れチェック)
- 法改正があった場合の速やかな規定変更
- 万が一、従業員から請求があった場合の初動対応サポート
当事務所では、給与計算の顧問契約の中でこれらを一括してサポートしています。「問題が起きてから相談する」のではなく、「問題が起きない仕組みを一緒に作る」ことが、私たちの役割です。
固定残業代は、正しく運用すれば経営にとって合理的な制度です。しかし、「なんとなく残業代込みにしている」状態が最もリスクが高いということを、ぜひ知っていただきたいと思います。
もし今回のセルフチェックで不安を感じた項目があれば、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。就業規則や雇用契約書をお持ちいただければ、その場で問題点と改善の方向性をお伝えします。
「うちの固定残業代、大丈夫かな?」
そう思ったときが、見直しのベストタイミングです。
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