残業代の「時給」、その計算で合っていますか? 月給制の基礎時給と深夜割増の正しい出し方|札幌の社労士が解説
割増賃金 / 残業代 / 深夜割増 / 計算方法
残業未払い・給与計算
~ 未払残業代の多くは「払っていない」ではなく「計算がずれている」ことから生まれます ~
未払残業代のご相談を受けていると、社長からよくこんな言葉を聞きます。
「残業代はちゃんと払っているよ。月給27万円だから、時給にすると1,400円くらいでしょ?」
ところが、実際に計算し直してみると、正しい時給は1,500円台後半ということが珍しくありません。1時間あたり数百円の差ですが、これが毎月・全員分・最大3年分積み重なると、数十万円から百万円を超える金額になります。
未払残業代のトラブルというと「残業代をまったく払っていなかった」ケースを想像しがちです。しかし中小企業で実際に多いのは、払ってはいるけれど、計算の「もと」がずれているケースです。本人に悪気がないぶん、何年も気づかれないまま積み上がっていきます。
この記事では、月給制の従業員の残業代を正しく計算するための考え方を、計算例つきで順番に解説します。電卓を横に置いて、自社の給与明細と見比べながら読んでみてください。

残業代(法律上は「割増賃金」といいます)は、次の式で計算します。
このうち、いちばん間違いが起きやすいのが「基礎時給」です。時給制のパートならそのままの時給を使えばよいのですが、月給制の場合は月給を「時給」に換算する必要があります。手順は3つです。
法律で決まった一部の手当だけは、計算の対象から外せます(詳しくは下の表)。それ以外の手当は、名前が何であっても含めます。
(365日 − 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月 で計算します。「所定」とは会社が決めた本来の勤務時間のことです。
これが「基礎時給」です。この金額に割増率を掛けて残業代を計算します。
労働基準法(37条5項・施行規則21条)で、計算から外してよいと決められているのは次の7種類だけです。
| 除外してよい手当(7種類) | 含めなければならない手当(例) |
|---|---|
| 家族手当 | 役職手当・店長手当 |
| 通勤手当 | 資格手当・技能手当 |
| 別居手当 | 皆勤手当・精勤手当 |
| 子女教育手当 | 営業手当・調整手当 |
| 住宅手当 | 業務手当(残業代として明確に区分されていないもの) |
| 臨時に支払われた賃金(結婚祝金など) | 一律に支給している家族手当・住宅手当 |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) | ― |
⚠ 名前ではなく「中身」で判断されます
「住宅手当」「家族手当」という名前でも、全員に一律○万円のように支給している場合は除外できません。家賃の額や扶養家族の人数に応じて金額が変わる支給方法になっていて初めて、計算から外せます。
ここからは、ご相談の現場で実際によく見かけるミスを3つ紹介します。前提は「月給27万円(基本給25万円+役職手当2万円)、1日8時間勤務、年間休日105日」の従業員です。
270,000円 ÷(30日 × 8時間 = 240時間)= 1,125円
(365日 − 105日)× 8時間 ÷ 12か月 = 約173.33時間
270,000円 ÷ 173.33時間 = 1,558円
休日も含めた「暦の日数」で割ってしまうと、分母が大きくなるぶん時給が小さく出ます。この例では1時間あたり433円も低く計算されています。
基本給250,000円 ÷ 173.33時間 = 1,442円(役職手当2万円を除外)
(基本給250,000円 + 役職手当20,000円)÷ 173.33時間 = 1,558円
「基本給だけで計算するもの」と思い込んでいるケースです。役職手当・皆勤手当・資格手当は、先ほどの7種類に入っていないので必ず含めます。
「今月は出勤日が22日だったから、270,000円 ÷(22日×8時間)」のように、月ごとに分母を変える計算も見かけます。月給制の場合は、年間を平均した「月平均所定労働時間」を使うのが原則です(施行規則19条)。月ごとに時給が上下すると、従業員からも「今月は残業代の単価が低い」と不信感を持たれやすくなります。
月平均所定労働時間は、年間カレンダー(年間休日数)が変わらない限り毎年同じ数字になります。一度正しく計算して、就業規則や給与ソフトに固定値として登録しておくと、毎月のミスを防げます。
基礎時給が出たら、次は「何倍にするか(割増率)」です。法律で決まっている最低ラインは次のとおりです。
| 働いた時間 | 割増率 | 基礎時給1,558円の場合 |
|---|---|---|
| 時間外労働(1日8時間・週40時間を超えた分) | 25%以上 | 1,948円 |
| 時間外労働のうち月60時間を超えた分 | 50%以上 | 2,337円 |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上 | +390円(上乗せ分) |
| 法定休日労働(週1日の法定休日) | 35%以上 | 2,103円 |
| 時間外 + 深夜 | 50%以上 | 2,337円 |
| 法定休日 + 深夜 | 60%以上 | 2,493円 |
※金額は1円未満を四捨五入。深夜労働は「所定の勤務時間内の深夜」なら25%の上乗せ分のみ、「時間外かつ深夜」なら1.5倍の全額になります。
⚠ 「月60時間超は大企業だけ」はもう通用しません
月60時間を超える時間外労働の50%割増は、2023年4月から中小企業にも適用されています。繁忙期に残業が多い建設業・運送業・飲食業は、給与ソフトの設定が古いままになっていないか確認が必要です。
週休2日の会社で土曜日に出勤した場合、その日が就業規則上の「法定休日」でなければ、35%の休日割増ではなく週40時間を超えた分について25%の時間外割増になります。逆に、法定休日に8時間を超えて働いても、割増率は35%のまま(時間外の25%は加算されない)です。どの曜日が法定休日なのか、就業規則で決めておくことが大切です。
それでは、具体的な例で「ずれ」がいくらになるか計算してみます。架空の飲食店の例です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 月給 | 270,000円(基本給25万円+店長手当2万円) |
| 勤務時間 | 16:00〜翌1:00(休憩1時間・実働8時間)月22日勤務 |
| 残業 | 月20時間(閉店後の片付け・仕込み) |
| 会社の計算方法 | 270,000円÷240時間=1,125円で残業代を計算/深夜割増は「月給に込み」として支払っていない |
| 項目 | 会社の計算 | 正しい計算 |
|---|---|---|
| 基礎時給 | 1,125円 | 1,558円 |
| 時間外単価(×1.25) | 1,406円 | 1,948円 |
| 月20時間分 | 28,120円 | 38,960円 |
| 毎月の不足額 | 10,840円 | |
22時〜翌1時の3時間は、所定の勤務時間の中であっても深夜割増(25%)が必要です。
| 計算 | 金額 |
|---|---|
| 深夜割増単価:1,558円 × 0.25 | 390円 |
| 1日3時間 × 22日 = 月66時間 | 66時間 |
| 毎月の不足額(390円 × 66時間) | 25,740円 |
| 内訳 | 月額 | 3年分(36か月) |
|---|---|---|
| 時間外手当の差額 | 10,840円 | 390,240円 |
| 深夜割増の未払い | 25,740円 | 926,640円 |
| 合計 | 36,580円 | 1,316,880円 |
⚠ 1人分で約130万円。しかもこれは「元本」だけです
残業代の請求権の時効は現在3年です。退職した従業員には未払額に年14.6%の遅延損害金(賃金の支払の確保等に関する法律6条)がかかり、裁判になれば未払額と同額までの付加金(労働基準法114条)の支払いを命じられる可能性もあります。同じ働き方の従業員が複数いれば、その人数分に膨らみます。
「深夜分は月給に込みのつもりだった」という主張は、雇用契約書や給与明細で深夜割増の金額と時間数がはっきり区分されていない限り、認められません。これは固定残業代とまったく同じ考え方です。詳しくは「うちは固定残業代を払っているから大丈夫」が一番危ないで解説しています。
「毎日15分未満は切り捨て」「残業は30分単位でしかつけない」という運用は、違法になる可能性が高いやり方です。行政通達で認められている端数処理は、次のような「1か月単位」のものに限られます。
- 1か月の時間外・休日・深夜それぞれの合計時間に1時間未満の端数があるとき、30分未満を切り捨て・30分以上を1時間に切り上げる
- 1時間あたりの単価や1か月の割増賃金の総額に1円未満の端数があるとき、50銭未満を切り捨て・50銭以上を1円に切り上げる
1日5分の切り捨てでも、1か月20日で100分、3年で約60時間分になります。「時刻は1分単位で記録し、端数処理は月末にまとめて」が基本です。
「管理監督者」(労働基準法41条)にあたる人には、時間外や休日の割増賃金を払わなくてもよいとされています。しかし、深夜割増だけは管理監督者にも支払いが必要です(最高裁 平成21年12月18日判決)。
そもそも、シフトに入って現場で働き、採用や労働条件を決める権限もない「店長」は、法律上の管理監督者と認められないことがほとんどです。「店長だから残業代なし」の運用は、飲食店・小売店で最もトラブルになりやすいパターンのひとつです。
1日6時間勤務のパートや時短社員が8時間まで働いた場合、その2時間は「法定内残業」といい、法律上の25%割増は不要です。ただし、働いた時間分の通常の賃金(1.0倍)は当然必要です。「割増がいらない=払わなくてよい」と誤解して、まったく払っていないケースがあります。また月給制の場合、この2時間を「月給に含まれる」とみるかどうかで計算が大きく変わるため、雇用契約書で扱いを明確にしておくことが大切です。
次の7項目を、自社の給与明細・給与ソフトの設定と見比べてみてください。ひとつでも「?」があれば、計算がずれている可能性があります。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 月給制の基礎時給を「月平均所定労働時間」で割って出している | □ |
| 年間休日数と1日の所定労働時間から、月平均所定労働時間を計算した根拠がある | □ |
| 役職手当・皆勤手当・資格手当などを基礎時給に含めている | □ |
| 家族手当・住宅手当を除外している場合、人数や家賃に応じた支給方法になっている | □ |
| 22時〜翌5時に働いた時間に深夜割増(25%)を払っている(店長・管理職も含む) | □ |
| 月60時間を超える時間外に50%の割増率を設定している | □ |
| 労働時間を1分単位で記録し、端数処理は月の合計でのみ行っている | □ |
チェックが付かなかった項目は、「いつから」「誰に」「いくら」ずれていたかを早めに確認しておくことをおすすめします。従業員から請求される前に会社から自主的に精算するのと、労働基準監督署からの指摘や請求を受けてから対応するのとでは、手間も金額も、従業員との関係も大きく変わります。
すでに請求を受けている、または労働基準監督署から連絡が来ているという場合は、元従業員から残業代を請求された!対応の全手順と労基署から呼び出された!経緯報告書を持参すべき理由と書き方もあわせてご覧ください。
A. 月給から家族手当・通勤手当など法律で除外が認められた手当を引き、「月平均所定労働時間」で割って計算します。月平均所定労働時間は「(365日−年間休日数)×1日の所定労働時間÷12」で求めます。月給を「30日×8時間」で割る方法は誤りです。
A. 雇用契約書や給与明細で、深夜割増に当たる金額と時間数が通常の賃金とはっきり区別されていれば可能です。区別されていない「込み」の給与では、深夜割増を払ったとは認められず、あらためて全額の支払いが必要になります。
A. 必要です。労働基準法上の管理監督者であっても、22時〜翌5時の深夜労働には25%の割増賃金を払わなければなりません。また、店長という肩書だけでは管理監督者と認められないことが多いため、時間外手当の要否もあわせて確認が必要です。
A. 1日ごとに端数を切り捨てる運用は、労働基準法違反となる可能性が高いです。認められているのは、1か月の合計時間について30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる方法です。日々の労働時間は1分単位で記録しましょう。
A. まず、ずれが「いつから」「誰に」「いくら」あるかを整理します。時効は3年なので、最大3年分をさかのぼって計算し、従業員に説明したうえで精算するのが基本です。計算方法や説明の仕方で後のトラブルが変わるため、社労士に計算の確認を依頼するのも一つの方法です。
- 月給制の基礎時給は「除外できる手当を引いた月給 ÷ 月平均所定労働時間」で出す
- 「30日×8時間」で割る、役職手当を外す――この2つが最も多いミス
- 深夜割増は所定の勤務時間内でも、店長・管理職でも必要
- 月60時間超の50%割増は中小企業にも適用済み
- 端数処理は1か月の合計でのみ。日々の切り捨てはNG
- ずれは最大3年分、遅延損害金や付加金とともに請求される可能性がある
残業代の計算は、一度仕組みを正しく作ってしまえば、毎月同じ手順で回せるものです。逆に、最初の設定がずれていると、何年もずれたまま積み上がります。「うちは払っているから大丈夫」と思っている会社ほど、一度だけ計算の「もと」を確認しておく価値があります。
直近3か月の給与明細をお預かりし、基礎時給・割増率・社会保険の加入状況を確認します。
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