二以上事業所の届出を出した後が本番|2社目を持つ社長の給与計算で起きる5つのズレ
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給与計算・社会保険
~ 二以上事業所勤務シリーズ第2弾|届出を出した後の「毎月の給与計算」でつまずかないために ~
2社目の会社を作り、両方の会社から役員報酬を受け取るようになると、社会保険は「二以上事業所勤務」という扱いになります。2社の報酬を合算して標準報酬月額を決め、保険料を報酬の割合で各社に按分する仕組みです(仕組みと具体的な金額は、前回の記事で解説しました)。
「二以上事業所勤務届」を年金事務所に出せば、手続きはひとまず完了です。ところが、実務で本当に手間がかかるのはその後の毎月の給与計算です。
この記事では、前回と同じ架空の社長を例に、2社目を持つ社長の給与計算で起きやすい「5つのズレ」と、その防ぎ方を解説します。
| 項目 | A社(既存) | B社(新設) |
|---|---|---|
| 業種 | 広告代理業 | 映像制作業 |
| 社長の役員報酬(月額) | 400,000円 | 100,000円 |
| 給与計算 | 経理担当者がソフトで計算 | 社長が自分で計算 |
※計算条件:令和8年度・協会けんぽ北海道支部(健康保険料率10.28%+子ども・子育て支援金率0.23%)、厚生年金保険料率18.3%、社長は40歳未満(介護保険料なし)。金額は社長本人の負担分です。
二以上事業所勤務届を出すと、年金事務所(事務センター)が2社合算の標準報酬月額と按分後の保険料額を決め、それぞれの会社に通知します。会社はこの通知の金額どおりに、給与から保険料を天引きします。
問題は、通知が届くまでに時間がかかることです。その間も給料日はやってきます。よくあるのが、次のような「とりあえず」の計算です。
| 会社 | とりあえずの天引き額 | 通知後の正しい天引き額 | 差額(月) |
|---|---|---|---|
| A社(今までどおり) | 59,060円 | 57,620円 | 1,440円 引きすぎ |
| B社(10万円で単独計算) | 14,117円 | 14,405円 | 288円 不足 |
金額は小さく見えますが、A社は引きすぎ、B社は不足と、2社で逆方向にズレるのがやっかいなところです。しかも保険料は、2社で被保険者になった月にさかのぼって決まります。通知が届いたら、それまでの月数分の差額をそれぞれの会社で精算することになります。
B社で役員報酬を出し始める前に、2社合算の保険料と按分額を試算しておきましょう。前回の記事のように計算すれば、通知が届く前でも正しい金額にかなり近い数字で天引きできます。届出は、2社で被保険者になってから10日以内に済ませておくことが前提です。
一般的な給与計算ソフトは、標準報酬月額を登録すれば保険料を自動で計算してくれます。しかし二以上事業所勤務の場合は、自社の報酬だけでは正しい保険料が出ません。標準報酬月額は2社合算で決まり、そこから按分した金額を天引きするからです。
そのため多くの会社では、通知書に書かれた金額をソフトに手入力(固定額で設定)しています。ここで起きやすいミスは次のとおりです。
- 自社の報酬だけで標準報酬月額を登録してしまい、ソフトが単独の保険料を自動計算している
- 健康保険料と厚生年金保険料の金額を逆に入力している
- 毎年3月分(4月納付分)からの保険料率の改定を、固定額のため反映し忘れる
- 令和8年4月分から始まった子ども・子育て支援金の分を反映していない
- 経理担当者が交代したときに、「この人だけ手入力」という事情が引き継がれていない
⚠ 「ソフトに任せているから大丈夫」が一番危ない
手入力した固定額は、料率が変わっても自動では直りません。保険料率の改定や子ども・子育て支援金の開始など、制度が変わるたびに、二以上事業所勤務の人の控除額を個別に見直す必要があります。
二以上事業所勤務で一番見落とされやすいのがここです。B社の報酬は何も変わっていないのに、B社の天引き額が変わることがあります。
例えば、A社の定時株主総会で、社長の役員報酬を40万円から48万円に上げたとします。
A社の報酬だけで見ても、標準報酬月額が41万円から47万円へ2等級以上上がるため、A社は「月額変更届」を出します。変更後の報酬が3か月続いた後、4か月目から保険料が変わります。
合算の報酬は50万円から58万円になり、標準報酬月額は50万円から59万円に上がります。
按分の割合が「A社4/5・B社1/5」から「A社480/580・B社100/580」に変わるため、B社の天引き額も変わります。
| 項目 | 改定前 | 改定後(約) |
|---|---|---|
| 2社合算の標準報酬月額 | 500,000円 | 590,000円 |
| 本人負担の合計 | 72,025円 | 84,989円 |
| A社の天引き額 | 57,620円 | 約70,336円 |
| B社の天引き額(報酬は10万円のまま) | 14,405円 | 約14,653円 |
※按分後の金額は概算です。実際の天引き額は、年金事務所から届く通知書の金額に従ってください。
「2社の報酬を合わせて2等級以上変われば、随時改定になる」
随時改定の要件は会社ごとに判断します。それぞれの会社の報酬の変動が2等級未満なら、合算すると2等級以上変わっていても随時改定にはなりません。一方で、片方の会社で随時改定があれば、合算の等級が変わらなくても各社の按分割合は変わります。(日本年金機構の疑義照会回答より)
どちらかの会社で役員報酬を変えるときは、もう一方の会社の給与計算担当にも必ず伝えることです。A社とB社で経理担当や税理士が違う場合、この連絡が抜けて、B社だけ古い金額で天引きを続けてしまうケースがよくあります。
毎年7月に提出する算定基礎届では、それぞれの会社が自社で支払った4月〜6月の報酬を届け出ます。年金事務所が2社分を合算して、9月分からの標準報酬月額を決め直します。
ここで注意したいのは、片方の会社が提出を忘れると、もう片方の会社の保険料も正しく決まらないことです。社長1人だけのB社は算定基礎届を後回しにしがちなので、A社の提出時期に合わせて一緒に確認する習慣をつけましょう。9月以降に届く新しい通知書で、控除額を設定し直すのも忘れずに。
どちらかの会社で役員賞与(事前確定届出給与など)を支給した場合は、支給した会社が「賞与支払届」を提出します。2社とも賞与を出す年や、賞与額が大きい年は、保険料の計算が複雑になります。支給前に社労士へ確認しておくと安心です。
事業が軌道に乗ったり、逆に片方の事業を縮小したりして、「やはり会社は1社にまとめたい」となることもあります。このときの社会保険の流れは次のとおりです。
例えばB社で役員報酬の支払いをやめる場合、B社が資格喪失届を出します(原則として事実発生から5日以内)。B社に他の従業員がいなくなり事業を終える場合は、会社自体の社会保険を廃止する「適用事業所全喪届」も必要です。
片方の会社で資格を喪失すると、二以上事業所勤務は終わります。標準報酬月額は、喪失した会社の報酬を除いて決め直されます。
手入力していた固定額の控除をやめ、通常どおりソフトで計算する設定に戻します。この切り替えを忘れると、按分後の金額のまま天引きを続けてしまいます。
⚠ 報酬を「寄せる」タイミングに注意
B社をやめる代わりに、A社の役員報酬を上げて合計額を保つケースもあります。この場合、A社では2等級以上の報酬変動として随時改定の対象になることがあります。いつB社の報酬を止め、いつA社の報酬を上げるかで、手続きの数や保険料の切り替わり時期が変わります。税金面にも影響するため、統合の方針を決めた段階で社労士・税理士に相談しましょう。
ここまでのズレが積み重なると、「B社では、社長の保険料を何か月も天引きしていなかった」という事態になることがあります。社長1人の会社では、納付書の支払いはしているのに、役員報酬からの本人分の天引きを忘れていた、というケースが珍しくありません。
このとき知っておきたいのが、給与から天引きできるのは原則として「前月分」の保険料だけというルールです(健康保険法第167条・厚生年金保険法第84条)。何か月分もまとめて、後から給与で天引きすることは原則としてできません。
- いつから・何か月分・いくら漏れているかを一覧にする
- 漏れた本人負担分を、本人から会社へ返してもらう方法を決める(振込など)
- 精算方法と金額を書面に残す
- 会社の帳簿上の処理(立替金など)を税理士と確認する
- 翌月以降の給与計算の設定を正しい金額に直す
社長本人の保険料であれば揉めることは少ないものの、会計処理と税務が絡むため、自己流で処理せず早めに専門家に相談するのが近道です。

両方の会社に届きます。選択事業所(被保険者本人が選んだ主たる会社)を管轄する事務センターが、標準報酬月額と按分後の保険料額をそれぞれの会社に通知します。各社は自社に届いた通知の金額で天引きします。
ソフトによって対応方法が違います。多くの場合、標準報酬月額による自動計算ではなく、通知書の金額を固定額で設定する方法になります。料率改定のたびに見直しが必要になるため、「この人は手入力」という情報を担当者の間で必ず共有してください。
間違いではない可能性が高いです。A社で随時改定や定時決定があると、2社合算の標準報酬月額と按分割合が変わり、B社の天引き額も変わります。通知の金額に従って設定を変更してください。
役員報酬の変更、賞与の支給、算定基礎届の提出、届いた通知書の内容を、両社で共有する仕組みを作ることです。2社の社会保険と給与計算を同じ社労士にまとめて任せると、こうした連絡漏れが起きにくくなります。
休眠させる会社で役員報酬の支払いをやめれば、その会社での被保険者資格は喪失となり、二以上事業所勤務は終わります。会社に他の被保険者がいない場合は、適用事業所全喪届も必要です。手続きの時期によって保険料の切り替わりが変わるため、事前に確認しましょう。
2社目を持つ社長の給与計算で起きる5つのズレをまとめます。
- ①通知書が届くまでの「とりあえず」の計算は、2社で逆方向にズレる
- ②給与ソフトの自動計算が使えず、固定額の手入力は料率改定で古くなる
- ③片方の役員報酬を変えると、もう片方の天引き額も変わる
- ④算定基礎届は2社そろって提出しないと保険料が正しく決まらない
- ⑤2社を1社にまとめるときは、資格喪失と給与計算の切り替えをセットで行う
どのズレにも共通する原因は、A社とB社の給与計算を別々の人が、別々に見ていることです。二以上事業所勤務の保険料は2社の情報がそろって初めて正しく決まるため、2社をまとめて1人の目で見る体制が、ミスを防ぐ一番の近道です。
通知書と2社の給与明細を拝見し、
控除額のズレと手続きの漏れを社労士がチェックします。
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